上司の彼女

「ねぇ、ご飯まだぁ?」

アジトの食堂で金切り声を上げるをガス台前に立つフィンクスが睨みつけた。
「お前、ちっとは手伝えや。」
「嫌だ嫌だ。だからフィンクスにやらせてるんじゃん。早くしてよコックさん。」
そしてまた太鼓を叩く具合で、フォークを食卓机に叩き文句を言うには殺気という名のオーラが飛ばされている。 当の本人はそんなの痛くもかゆくもないらしく、相変わらずの態度。 そんな2人を見ていたフランクリンは、フィンクスを哀れんだ。

自分で料理を作るのがめんどくさいからと、寝ていたフィンクスがに叩き起こされ、 『団長がフィンクスに作ってもらえって言った。』そう一言告げられた。
このの『団長が・・・・言った。』センテンスは報告じゃなくて団長からの間接的「命令」だ。

「まさか団長、おれが無断でプリン食ったのまだ怒ってんのかよ。」
そしてベット脇で腹が空いたと騒ぎ出したを引っ張って今台所に居るわけだ。

「何でこいつがアジトにいるんだよ。今回の仕事はマチと俺たちだけだったはずだぜ。」
先ほど完成させたオムレツを満足そうに頬張り、やっと大人しくなったを横目に、フランクリンに愚痴たれる。

「団長が呼んだんだとよ。」
「ああ?団長か?ざっけんなよクロロ。世話役は誰だと思ってんだ。」
「フィンクス足りないよ!おかわり!!!!」

卵5個分のオムレツを僅か2分で間食したに、フィンクスの拳が震え、フランクリンは首を横に振った。













「チェックメイト。」
朝、ランニングからアジトへ帰る途中の道で、偵察から帰ってきたシャルと団長に出くわした流れで、この2時間チェスをしている。

「へぇ、マチってチェス強かったんだ。」
あっさり負けを認めたシャルナークはクイーンの駒を弾かせた。
「旅団の中で一番チェス強い人間って誰だと思う?」
「団長じゃないのかい?」
「はずれ!なんとあのだよ。」
想定外の回答にへぇ、と繭を吊り上げた。

「以外だよね。バカキャラなのに。意外と鋭いんだ。まぁそうでもなきゃ団長が気に入る人材なわけないんだけど。」

バーン!!
「「・・・。」」
「シャル、団長がとゲームしてやれって。マチちゃん、団長がの戦闘着縫い直してやれって。」

、団長が−じゃなくで、○○して欲しいとか、して下さいっていうんだよ。おいで縫ってあげる。」
「午前中はゲームできないや。午後ね。」

ポテン、とマチの前に座って念糸縫合をマジマジとみるの目は、昔のクロロの目に似てる。 まだ無邪気だった流星街時代、捨てられるもの、拾うものすべてが新しくて、ワクワクしたころの目。
は必要以上に俺たちに懐かない。それは友達を失う怖さを知っているから。
懐かないんじゃなくて、懐きたくないんだ。仲良くなって、また失うのが怖いから。

昔、の親友が死んだときのように。



それを知ってる俺たちは世話を焼きながらも彼女を可愛がっているつもりだ。 あのマチが「ああ言う馬鹿は嫌いじゃない。」という程に。 フィンクスも表面上は怒り大放出だけど、内心はそんなに酷いもんじゃない。だから正直なところ、に懐かれているクロロを妬ましくすら思うことがある。 本人もそれを自覚しているようで、わざと俺達に見せつけている。それがまた腹立たしい。

誘拐大作戦」と計画を立てた紙はまだ机の中にある。

これを決行する日は来るのだろうか、そうマチが縫合を終え切った糸に目を細めた。





「おつかれ。」
その言葉と共に始まった宴会は数ヶ月ぶりだ。この先目だった大きな仕事はまた数ヶ月先までない。 可愛く言えば今日はいったんのお別れ回というやつ。 稼いだ金であたらしいコンピュータを買おうか、これから数ヶ月何をしようか酒を飲みながらそんなことを考えていた。

、明日からヨークシンで買い物するんだ。一緒に来るかい?」
マチが人を誘うなんて珍しい。本当に気に入ってるんだな、とビールを流し込む。 首をひねりうーん、とハッキリしない回答。理由は大体想像がつく。
「クロロと約束してるから無理かなぁ。」
繭を吊り上げてクロロを睨むマチ。クロロは涼しそうに何も語らず呑み続けている。 内心ではざまぁみろとか思っているに違いない。

「ねえ団長、彼女束縛する男って最悪だよ。」
殻の缶ビールを放り投げた。今日は酒廻りが速い。 いつもなら決して口走らないことをいった俺に、漆黒の瞳が向けられた。

「俺はを束縛しているつもりなどないが。」
「でも、が俺たちに懐いたら面白くないとおもってるでしょ。」

「・・・。」
(((((…図星か。)))))

ってさ、結局団長の何なのさ。おもちゃ?マリオネット?捨て駒?」
ふふん、と鼻高々に言う珍しくよっているシャルナークの質問に、一同の視線がクロロに注がれた。

「残念だなシャル。まさかお前の分析がそこまで劣っているとは。」
喧嘩腰の両者に挟まれ座っているは我関せず。相変わらず紹興酒をビール瓶で呑んでいる。


「こいつはもう俺の女だ。」


バキバキッ。 マチの拳で潰された缶ビールが音を立ててる。

「この紹興酒、おいしーい!クロロ、もう1本欲しい!」
「そうか。フランクリンに買ってきてもらえ。」
「フランクリン、団長が−。」
「…聞こえたよ。」




『こいつは俺の女だ。』
この旅団名言集追加決定の一言に、団員全員を敵に回したクロロの運命はいかに。 シャルナークをはじめとした団員が『誘拐大作戦』を決行するのはこの数日後の話。